2017年02月01日

濃すぎる理由/スカイラインGT

 たまには元メカニックらしい話をしないといけませんね、と思っていたら古い日記にこんなのがありました。

平成112月の日記です。


  最近整備業界も大変厳しく、車検は単価が下がる一方、定期点検は数が少なくなり、小修理に至っては故障そのものが少なくなって来ています、それでたまに入庫した故障がコンピューターに関連するものであれば、設備や技術力に乏しい町工場では、診断の段階で時間がかかりすぎて全く商売にはなりません。それでもお得意様からの依頼であれば避けて通るわけにも行かず、果敢に挑戦するのであります。


  マフラーから黒煙をもくもくと吐きながらぶすぶすと異様な音を立てて入庫してきた車は、スカイラインGT、62年式HR31、エンジンはRB20ターボ車です。

暖機冷機や負荷にかかわらずおしなべて混合気が濃すぎるようです。早速診断に取りかかります。


  まずトラブルシューティングチャートで見当をつけることにします。

黒煙を吐くほどガスが濃いのですから、バキューム、と水温、スロットルの各センサー、それにエアフローメーターを調べる必要がありそうです。

  手持ちの資料で、この車にはバキュームセンサーはなく、エヤーフローメーターはホットワイヤー式である事が判りました。

日産のホットワイヤー式エヤフローメーターの古いタイプのものは故障が多いという記述も見つけました。


そこでまずエヤフロから取りかかる事にします。

はじめにカプラーをはずしてみました、すると、アイドリングは不安定なものの千から二千回転では普通に吹きあがり、二千回転でハンチングします。これはフェイルセイフ機能によるものと思われます。

つまりエアフロに不具合があるという証左です。

  もうこれは解決しました、エアフローメーターを交換すれば良いのです、しかしここでもう一息待ちましょう。

これではKKD(観と経験と度胸)です。

私にはDが足りません。デーラーに電話をしてエアフロ単体での点検方法を教えてもらうことにしました。


曰く、エアフロの出力信号(電圧)を測定する。キーオンで1Vと云う事でした、早速計ってみますと1.6Vあります。ほっとワイヤーに息を吹きかけると2.5Vまで上がります。

ちなみに手持ちの資料でもCPUの端子で1.1Vとあります。間違いなくエアフロの不良です。部品を注文してこの日は他の仕事に就きました。


  明くる日、到着した部品、新品のエアフローメーターを取りつけてキーをひねります。

ところがどうでしょう、全く直っていません、相変わらず真っ黒な煙を吐いてぶすぶすと吹き上がりません。どうしたら良いのでしょう。手持ちの資料をめくるとVGエンジンに1.6Vのものがあるようです。

さては部品の間違いかと思って日産部販で確かめますが間違いないとのこと、VGRBでも同じだというのです。

  もう一度デーラーに電話します。今度は昨日とは違うサービスマンが応対してくれました。昨日と同じ事を訪ねるとエアフロの出力信号は1.6Vが正しいと言うのです。それでは昨日の間違いは何だったのでしょうか。

おそらく年式による違いでしょう、こうなると手持ちの資料も全く当てになりません。しかしそれに文句を言ってこれ以上教えてくれなくなってはお手上げです、ぐっとこらえて何度も確かめ、他のセンサー類の点検方法も教えてもらい、気を取り直して一からやり直しです。


  だがこれからが大変です。教えてもらった各センサーをすべてチェックし、インジェクター、バルブタイミング、それにコンピューターの自己診断機能もチェックしましたが全く異常ありません。無駄なことと知りながらヒューズやターボのプレッシャーセンサーまで考えられるものを片っ端からチェックします、燃料タンクのガソリンも交換しましたがクルマは何とも答えてくれません。


  そろそろ万策尽きたと言う言葉が脳裡をかすめます。燃圧計をじっと見つめ考えるともなくぼーっとしていますと、ほんの少し燃圧が高めなことが気になり始めました。

燃圧を制御しているプレッシャーレギレータは、マニホールド負圧によって働いています。それではとバキュームゲージを取りつけてみます。安定しないエンジン回転を何とか安定させてみますがバキュームゲージの針は400から上がりません。

やはりこれは何か物理的な故障に違いありません。


  バキュームホースなどをチェックするうちに変な事を思いつきました。エアフロに吸気を通さなかったらどうなるの、と云う事です。まずは簡単にスロットルボディの手前でダクトをはずして、つまりエアフロやターボなどを通さずに直接空気を吸わせるのです。

  幾分良くなりますがやっぱり黒煙を吐きます。良く見るとこの状態でもエアフロは空気を吸い込んでいます。ターボチャージャーはアイドリングでも回転しているのです。

やはりエアフロ本体をはずしてみなければ判りません。

はずしてみるとエンジンはかかりません。

当然です。エアフロに空気が通らなければインジェクターは燃料を噴射しないのです。エアフロを通る空気量によって噴射量を決めているのですから。


  従ってエンジンが吸い込む空気量よりエアフロを通る空気量の方が多ければ、インジェクターの噴射量が多すぎて、エンジンに濃い混合気を送ると云う事になるのです。

試しにエアフロを直接スロットルボディの手前のダクトにガムテープでくくりつけてみました。全く嘘のように調子よくエンジンが回りました。


  やっと光が見えた思いです。原因はターボチャーシャーにあるのでしょうか。

ターボで発生した過給圧がどこかで漏れているということかもしれません。

ターボチャージャーのシャフトで吹き抜けを起こしているとしても排気が吸入側に吹き抜けることがあっても、吸気が漏れることはないはずです。と云う事はターボ以降で漏れているのです。


  インタークーラーです。このクルマのインタークーラーはヘッドライトの下、フェンダーの中に隠すように埋め込まれています。

カバーをはずして覗き込みますが別段異常があるようには見えません。紙切れの吹き流しで空気の流量を見てみますと、確かにターボへの流量はターボの出口で噴き出されますがインタークーラーの出口には出てきません。ままよとばかりにこれをはずしてみますと、瞬時にばらばらになって落ちてきました。プラスチックのタンクは割れ、コアも歪んでいます。


  クルマのボディに外傷はありませんが何かの衝撃が加わったとしか思えません。

お客様に報告するとご自宅内で水道かなにかの工事中、クルマが邪魔になるというのでキーを預けたとのこと、どこでどんな衝撃が加わったのか今となっては判りません。

とまれ、三日もかけてやっと判った故障診断、わが社の経営者のこれでは商売にならないとばかりの渋い顔を見るのも辛いものがありますし、メカニックとしてはまったく恥ずかしい限りですが、土壇場で吸気の流れに思い至ったことは天啓の如し閃きと自画自賛している次第です。

posted by 健太朗 at 21:58| 京都 | Comment(2) | TrackBack(0) | ニッサンの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
お久しぶりです。
お引越ししてからお初のコメントになります。

だんだん車の機構が複雑化してきて故障診断が難しくなってきていますね。電子制御が入れば入るほど、目には見えないので診断が難しくなってきているようです。機械仕掛けの頃は目で見れるので分かりやすかったですし、寿命も長くとれますね。

独車などはウォータポンプまで電子化してしまって、いつ壊れるか分からず、距離走る私はいくら高級感があっても、足回りや車体がしっかりしていても、こんな車乗る気さえしませんです。さすがにラジエターファンをベルト駆動する車はもう全滅のようですが、旧来からのベルト駆動の機械仕掛けのウォータポンプのほうが、保守管理もしやすく安心感高いです。


当方のCD250Uの軽二輪もですが、キャブ仕様のバイクが20年や30年選手でいられるのも、電子機構はCDIとかピックアップコイルとかレギュレーターぐらいで、あとはアナログだから長持ちできるのでしょうね。

私のムーヴコンテカスタムの不具合事例をたまたまネットで調べていたら、雪国地方の車で屋根上に雪が積もり、屋根の天板の内側が結露して、その水滴がAピラーを伝わって、ダュシュボードの下にあるコンピーターやヒューズBoxを濡らし、ショートさせて不調になっている事例が紹介されていました。これなかなか原因が分からなかったそうですが、カクカクシカジカの車体構造があだとなっているようでした。


そうはいっても私の23万km直前まで走行した故障も無かった軽ターボ車ですが、スロットルは旧来のワイヤー式だし(しばらくして電子化された模様)、尾灯もヘッドライトもHIDも含む電球式なので、ほぼLED式の灯火類の今ほどの車のように高額修理にはならずに済むところも気に入っています。

軽ターボ車での遠出は少しつらいときもありますが、まだアナログ臭が幾分残っている今の2010年式の車を極力乗りつぶすべく新車は買わず、あと6年ほどは乗るべくかなりリフレッシュして対応した次第です。
Posted by カクシカおじさん at 2017年10月27日 19:51
健太朗です。
カクシカおじさんお久しぶりのコメントありがとうございます。

このスカGの話は今年2月にupした記事ですが、実は平成11年の日記なのですね、そして昭和62年型、正に“昭和のクルマ”の話なのです。
私たち旧式の自動車屋はもう昭和の終わり頃には電子制御とのバトルを繰り広げていたのですあります、コンピュータの診断はコンピュータで、と言って余計なコストをかけたこともありました、でもほとんどトラブルの原因はこのスカGの例のような、カクシカおじさんのムーヴコンテカスタムの不具合事例のような、物理的なトラブルが多かったように思います。

そして20世紀の終わり頃の平成9年、発売とほぼ同時に初代プリウスを豪邸のマダムに買って頂きました、この時、トヨタのディーラーから「このクルマのハイブリッドに関する部分は、お宅の工場では決してさわらないように」というお達しがありました。
まだ若かった私はなんだか馬鹿にされた気持ちで憤慨したものでした。

この時の気持ちを思ったら、いま、クルマは職業から趣味になった私がアクアに乗っているのはどうなんでしょう、どこかおかしい気がします。
人生最後のクルマだと思って半ば衝動買いのようにしてアクアに乗ったのですが、やっぱり人生最後のクルマはもっとメカニカルな楽しいクルマでないと、と今、密かにもくろんでいます。
Posted by 健太朗 at 2017年10月29日 18:03
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