2007年11月25日

幼なじみのてんとう虫

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   スバル360が現在の町中を走っていると、どんな小さなクルマの陰にも隠れてしまうほど小さいくせに、どのクルマより目立ってしまうほど可愛くてユニークだ。
 そのスバル360にてんとうむしという愛称が付いたのはこのクルマの存在が歴史の彼方になってからのことである。
 丸っこい卵形のボディーデザインがフォルクスワーゲンタイプ1によく似ていて、VWがビートル(KW・カブトムシ)と呼ばれたのに対して360をてんとうむしと呼んだのである。
 そういえば360の型式はK111というよく似た呼称になっていた。


   この全長3メートル、全幅1.3メートル、全高1.36メートルの小さなモノコックボディーには信じられないほどの室内空間があって、大人4人が十分乗れてしまうから驚きだ。
 それには小さなエンジンをめいっぱい後ろに追いやって工夫を凝らした、当時の富士重工の技術者と設計者の百瀬晋六さんの知恵と情熱の結晶であったのだと思う。

 だがこのクルマの成り立ちは現在のクルマたちとはあまりにも違いがありすぎる。 

 エンジン、サスペンション、そしてボディーのデザインなどすべてがそうである。

 2サイクルエンジンは、今でも原動機付自転車の一部に残っているが、昭和40年頃の軽自動車のほとんどが2サイクルエンジンであった。スバルサンバーのほかダイハツフェローやハイゼット、ミゼット、スズライトフロンテやキャリー、三菱360やミニカ、レオなど、その他にもホープスターなどがあった。


 ちょっとクルマに興味のある方なら誰でも知っていることであるが、2サイクルエンジンというのは、吸入、圧縮、爆発、排気の1サイクルをピストンの上下1往復、つまり2ストロークで完了するので2ストローク1サイクルエンジンといったものであって、それを縮めてなぜか2サイクルエンジンというのである。
 これは4サイクルエンジンと違って、ピストンの上側にも下側にも燃料・混合気を入れるため、ピストンやクランクの潤滑が直接出来ないのであらかじめ燃料のガソリンの中にエンジンオイルを混合して使った。その為マフラーから白い煙をもくもくと吐いて走るのである。だから世に公害という言葉が蔓延するに従って次第にその姿を消していったのである。

 スバル360のサスペンションはそのパッケージングがそうであるように、VWビートルをお手本にしているものでトーションバースプリング(ねじりバネ)とトレーリングアームやスイングアームを組み合わせたものでマクファーソンストラットが開発される以前の小型軽量車の常套であった。
 また、エンジンが後ろにあるために前後の重量バランスが現在の前輪駆動車とは逆で、前が非常に軽く(尤も全体の重量が300Kg台というのも驚異的であるが)、つんと顎をあげたスタイルが、前に二人乗車すると地面にはいつくばった姿勢になり、さらにブレーキをかけると顎を地面にこすりそうになる、そしてそのブレーキを断続的に踏むと、これは想像できるだろうか、うなずきを繰り返してリズムをとるようなダンスを踊る。これをチンダンスと呼ぶ(人もいた)。

 さて、昭和39年、私は誕生日か過ぎると軽免許が取れる年齢になった。

 小学生の頃から自動車大好き少年だった私は一日千秋の思いでこの日を待ちわびていた。
そんな頃、幼なじみのO君の父上で近所のお寺の和尚さん(おっさんと言う)が乗っているグリーンのスバル360、
 これはもうこれ自体が幼なじみなのだ。
 だから後に私が所有するのは当然の運命だったのだ。
 和尚さんは恰幅のある方で、運転はけして上手な方ではなかった、と私は思っていた、和尚さんがお寺の前の電柱にすうっと接触して、何食わぬ顔をしてそのまま走行って行かれたのを見たからかもしれない。

 しかしこの私の思いこみはあとになって覆されるのである。それは私が免許を取ってこのクルマを譲ってもらい、自分で運転をしたらすぐに理解した。

 このクルマに乗り込むためにはまずドアを開ける、それは当たり前だがこのクルマの場合は後ろヒンジの前開きなのだ。クルマの前の方からおしりを突き出すようにして滑り込む、言葉にすると面倒なようだが前ヒンジ後ろ開きのドアよりよほど乗りやすい。

 シートに座ると脚を前方奥へ伸ばすのだがハンドルは胸の前に迫っている。

 もちろんリクライニングなんて物はない、尤もリクラインがあったとしても着座位置が低いのでシートをリクラインすると前が見えない。アルミの皿にスポンジを詰め込んで皮を張ったようなシンプルなシートだ。薄いシートだからこそ空間が大きくとれるのだ、合理的と言える。

 

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 鉄板の薄いダッシュボードの右端にキーを差し込む、キーは片切りだから上下を間違えては入らない、右に一段回す、今のクルマならもう一段回すとスターターモーターが廻ってエンジンがかかるのだが、そうはいかない、スバルの場合は二段目はヘッドライトスイッチになっている。オートバイと同じだ。

 左手を下に下すとチェンジレバーのすぐ後ろに鉄板で作った小さいレバーが二本ある、右側がスターターだ、まず左側のチョークレバーをいっぱいに引き上げ右側のスターターレバーを引くとスターターモーターが回り出す、このときバターナイフのようなアクセルペダルを踏んではいけない、そしてエンジンがかかる瞬間レバーを持ち替えてチョークを少しだけ戻してやる、失敗するともちろんエンストだ。

 エンジンがかかったらアクセルペダルを少しだけ踏んで回転を保ってやる、踏みすぎてはいけない。それから少しずつチョークを戻してゆく、回転が不安定になるようならまた少しチョークを足してやる、いわゆるチョークを探るというテクニックだ。
 このときエンジン音は室内いっぱいにこもって大きな太鼓の中に座っている感じだ。そして後ろからは真っ白な煙がもくもくと出ているが気にしてはいけない。

 こうしてアイドリングが落ち着いたらスタートだ。割り箸の先にマッチ箱をくっつけたようなクラッチペダルをいっぱいに踏んでギヤをローに入れる、パターンは横エッチだ。チェンジレバーを手前に引いて右に倒すとローだ、左はバック。レバーを引かずに左へ倒すとセカンド、右へ倒すとトップギヤ、3速だ。

 このレバーのこつは膝を旨く使うこと、慣れればなんでもない。クラッチワークも少々神経を使う、無造作に扱うと必ずエンストだ。慎重に合わせてちょっと戻す、こういう微妙な左足の動きが大切になる。

 走り出したらハンドルを大胆に回す、なんと言ってもロックツーロックが四回転以上あるのに常にオーバーステアだ、うっかりしてると何処へ飛んで行くやら・・・。

 左に電柱が迫ってきても遠慮してるとよけられない。
 ちょっと小石をよけるにも半回転くらい回すのだ。
 こんなだから和尚さんが電柱にがりがりこすっても運転が下手だとはいえないのである。

 じつはこの麗しの愛車は至る所傷だらけの恋人なのだ。

 

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 ちなみにステアリングシャフトを受けるために現在ならステアリンクポストという物があってベアリングで受けているが360のステアリングポストにはベアリングは存在しない、ラバーの分厚いOリングがあるだけだ。ステアリングシャフトの「がた」などあって当たり前なのだ。

 

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posted by 健太朗 at 17:03| Comment(0) | TrackBack(0) | スバルの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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