2007年08月17日

部品工場のミゼット

Brog 
  昭和32年に発売されたミゼットはバーハンドルの一人乗り、2ストローク240cc10馬力のエンジンに跨って乗るタイプ、つまりオート三輪の小さいものであったが、これでも当時の軽自動車免許の枠一杯のエンジンであった。


 それから二年後、ミゼットはMPに進化した。丸ハンドルの二人乗り、ボディは鉄板だが屋根は幌が張ってあった。今ならさしずめキャンバストップと言うところ(簡単には外せない)。エンジンは305cc12馬力になってずいぶんゴージャスになった。と当時の私はそう感じた。

 当時私が勤めていた整備工場は隣で部品工場もやっていた。ダイハツの下請けの下請け、孫請けとも言う小さな工場だ、旋盤やフライス盤を一つ一つ操作して、トランスミッションのシンクロメッシュハウジングや、クラッチのレリーズピンなどを作っていた。

 昭和40年頃はマイカーが急速に普及する直前の時代で、整備工場を建てて工具や整備工をそろえても、まだ仕事はそんなに多くなかった。そこで我々新米のメカニックは部品工場の手伝いにかり出された。

 私たちは自動車の整備技術を覚えるまえに旋盤の使い方を覚えてしまった。ハンドルを廻し、レバーを引き、小さなブッシュなど1分間に10個ほども作ってしまう。全自動の旋盤ではなくすべて手動の機械である。こんな仕事も面白いと言えばおもしろいが、単純な動作の繰り返しはすぐに飽きてしまうものである。そしてそこで作った部品をダイハツの甲子園工場や大金クラッチの工場まで配達に出かけるのである。

 この部品工場には小型のトラックやオート三輪もあったのだが、軽免許しか持たない我々新米にはマツダK360が与えられていた。しかしダイハツの工場へ部品を納入するのにライバルのマツダに乗っていくのでは相手の心証が悪い。そこでミゼットMPが登場するのである。

 

Ex4midget 
 ポンコツ寸前の下取り車を蘇らせるのは新米メカニックの、つまりは教材である。今で言うレストアのような仕事だ。殆どすべてを分解して整備するのだが、レストアのように完璧なまでの仕上げは出来ない。金をかけてはいけない。時間も余りかけられない。新品の部品は殆ど使わない。ラバー類やビストンリングなどの消耗品だけだ。例えばディストリビュータは分解してブッシュは隣の部品工場の旋盤で作ってしまう。それもこれもなにせ新米がやるのだから頼りないことこの上ない。それでもベテラン工場長の指導の下、完成させ前述の部品を背中に積んで京都から寝屋川や甲子園まで約30キロの道のりを1時間あまりかけて行く。

 このクルマはMP2で、荷台の寸法は縦横とも1メートル程だからそんなに沢山は積めない。だがこの荷台に500Kg近い荷物を積むのである。ちなみに法定最大積載量は250Kgである。後のリーフスプリングはもはや車体を持ち上げることを完全に放棄している。8インチのタイヤはおばあちゃんのお尻のようにへたり込んでいる。ブレーキは後二輪にしかないので、まず同僚がタクシーに追突した。しかし当時はまだむち打ち症などと言う言葉さえも知らない時代、それにコロナのタクシーは丈夫なメッキバンパーを備えていて、「事故」にもならなかった。

 私はこれを教訓に控えめのスピードと速めのブレーキを心がけていつものように出発した。それでも国道1号に出ると5〜60Km/hも出すことが出来た。

 折しも木材を満載にした大型トレーラーがのろのろとミゼットの行く手を遮っていた。天下の国道1号線も片側1車線、このトレーラーを追い越すのは非力な、それも積載重量違反のミゼットにとっては至難の業である。

 直線にさしかかった。対向車はない。えぇいままよとばかりに対向車線に飛び出した。アクセルを床までふんずけて、後はスピードが出るのを待つばかりだ。オーバーホール後のエンジンには20対1の混合油(ガソリンとエンジンオイルの混合)を呑ましてあるので後は煙幕のような煙で真っ白であった、がミゼットは期待通り2サイクル単気筒エンジンをうならせて40キロ、50キロとスピードを上げる。トレーラーの連結部あたりまで追い越した。60キロに達していた。その時、「がきっ」と音がしてミゼットのエンジンはフリーズした、フリーズなどとそんな冷たい話ではないホットなホットなオーバーヒートだ。大きな音ではなかった。しかし非力なブレーキをふんずけるよりも強い制動力で停まった。

 トレーラーはミゼットの左側を何事もなかったかのように通り過ぎた。対向車線にぽつんと、ミゼットと私は取り残された、そして煙にまかれた。ギヤをニュートラルにして車を降り、押して左端に寄せるまで対向車はなかった。

 

posted by 健太朗 at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 軽トラの話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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